気候変動への適応

ステークホルダーダイアログ2019

防災減災を組み込んだ企業活動
自然災害大国の日本だからこそ防災産業で世界をリードする

ダイアログ開催概要

開催日:2019年6月11日(火)
場 所:文化シヤッター株式会社 会議室
参加者:4名(社外3名)

鹿島建設株式会社 技術研究所 プリンシパル・リサーチャー 近藤 宏二様
株式会社構造計画研究所 取締役専務執行役員管理本部長 荒木 秀朗様
株式会社日刊工業新聞社 日本防災産業会議事務局 藤元 正様
文化シヤッター株式会社 常務執行役員営業企画部長 大澤 慎一

※ 掲載している所属・役職はダイアログ開催時のものです。

日本防災産業会議の発足から現在まで

株式会社日刊工業新聞社
日本防災産業会議事務局
藤元 正 様
藤元 日本防災産業会議の発足は2015年7月ですが、やはり大きな契機となったのは2011年3月の東日本大震災です。2015年に仙台で国連防災世界会議が開かれ、そこで「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。それをもとに日本政府は防災減災に本格的に取り組み始めたのですが、産業界も呼応し、民間企業の技術、ノウハウ、あるいは学識者の知見なども合わせて、日本全体の強靭化に結びつけようと、この会議が生まれました。「被災状況を把握でき、避難行動につながる情報共有基盤の構築」「優れた技術ソリューションの普及を促す方法の検討」「災害時ではなく平常時から利用できる装置、システムの普及によりモノと技術で災害対応力の向上を狙う」という3つの基本目的があり、モノ・技術・情報の融合によって防災産業の発展をめざそうというものです。「イノベーション創出による防災減災レジリエンス社会の実現」も謳い、そのための指針となる8つのビジョンも作りました。これによって会議に参画された各社が防災減災という枠組みの中におけるそれぞれの立ち位置を確認できます。またそこでどういう連携ができるのか、新たなイノベーションを起こすべき領域はどこなのかが見えてきます。国連防災世界会議から4か月で日本防災産業会議を立ち上げることができたのは、内閣府のご協力、ご尽力があったこと、また現在26社のご参加をいただいていますが、各社が防災分野に大変関心をお持ちだったということも大きかったです。
文化シヤッター株式会社
常務執行役員営業企画部長
大澤 慎一
大澤 文化シヤッターはもともと「エコと防災」をキーワードに止水事業を核とした「快適環境ソリューショングループ」をめざそうとしていたところにこのお話がありましたので、会議の発足時から関わらせていただきました。当初はモノ・技術分科会と情報分科会の二つがありましたが、参加各企業の持つモノ・技術および情報等を、発災前、発災時、発災後の横軸、災害の種類を縦軸とした一覧表に落とし込んだ「防災モノ・技術一覧表」(以下通称 防災マップ)づくりの課程で、モノ・技術と情報が互いに密接に結びついているということがはっきりしました。そこで現在は二つの分科会を一つの運営委員会という形に統合しています。

被害情報の即時配信とアークジーアイエスオンライン

鹿島建設株式会社
技術研究所
プリンシパル・リサーチャー
近藤 宏二 様
近藤 日本防災産業会議では昨年の9月から会員企業向けに、地震時建物被害情報の即時配信という実験を開始しました。これは防災科学技術研究所が発信する災害情報をもとに、当社の技術研究所が開発した、震度等に基づいた建物被害や人的被害を推定するプログラムを活用して、地震の発生から10〜20分程度で会員に推計被害情報を配信するというサービスです。大阪府北部地震や北海道胆振東部地震で、実際にその被害の推計と現地の状況を比較したところ、かなり精度が良いことが確認できました。まだ配信を希望されている会社が少ないので、そこを増やしてこちらからも防災科学技術研究所に情報をフィードバックすることで、精度向上やイノベーション創出につなげられればと思います。
大澤 私どもの全国202事業所の位置データを登録させていただいたところ、大阪府北部地震が起きた際、該当地域の構造被害をパーセンテージで表したメールが配信されてきました。後に関西支店に確認したところ、その推定はかなりの確度だったことが判明しました。そこで今はグループ会社の207拠点、サプライヤーさんの138拠点を新たに追加登録させてもらったところです。こういった情報をフィードバックしてさらに確度を上げていくことが重要だと考えています。
近藤 アークジーアイエスオンライン(ArcGIS Online)の活用も推進しています。これは地震の強さ、雨量、洪水状況、道路被害、土砂災害、断水状況などの多岐にわたる数値情報を、視覚的にわかりやすく会員に提供するプラットフォームです。府省庁が持つさまざまな情報を一つにまとめて共有するために、防災科学技術研究所が開発した基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D)の情報を活用するものです。日本防災産業会議では防災科学技術研究所と包括契約を結んで、クライシスレスポンスサイトを通じてその情報を共有させていただきまして、アークジーアイエスオンラインに発展させています。
日本防災産業会議 ArcGIS Online
トップページ
ArcGIS Onlineの会員向けメニュー
地震の強さ、雨量、洪水状況などの数値情報を視覚的にわかりやすく提供。
藤元 やはり情報が重要なのは皆さんわかっているのですが、それをどうわかりやすく伝えるのかが一番の問題です。アークジーアイエスオンラインでは会員企業が自分たちの拠点情報をマッピングすることで、そこでの災害情報や災害リスク等をビジュアルにわかりやすく見ることができます。災害発生時だけでなく、通常の気象情報もほぼリアルタイムで得られるので、災害が起こる前にリスク状況を把握することが可能です。
近藤 アークジーアイエスオンラインは国や自治体と民間企業をつなぐ重要なパイプになると考えています。このシステムを通じて拠点まわりの情報を会員企業からフィードバックしてもらうことで、防災科学技術研究所は自分たちの情報の正確さが確認でき、我々は日本防災産業会議の防災マップ情報を国、自治体に広げてもらうことができるという、産・官連携のひとつのモデルになると期待しています。

防災営業支援ツールとRiverCast(リバーキャスト)

株式会社構造計画研究所
取締役専務執行役員
管理本部長
荒木 秀朗 様
荒木 日本防災プラットフォームという団体で私が理事を務めていたことから、この日本防災産業会議に参加させていただくことになりましたが、私どもはいま防災用の営業支援ツールを大手広告代理店と一緒に開発しています。先ほどお話が出た防災マップを発展させたものですが、日本中のさまざまな地点での地震リスク、水害リスクを割り出し、それに対応する対策を、また日本防災産業会議の会員企業が持ついろいろなソリューションをメニュー化して提案しようというものです。このツールを通じて日本における防災産業の発展のためのお手伝いができれば嬉しいですね。
防災営業支援ツールの画面イメージ
①災害リスクの提示と説明
地震、水害、土砂災害の3つの災害について、その場所に応じた危険度を3段階で示し、さらに、その危険度に関する詳細情報を表示します
②対応方法の提示
災害に対応するために行うべきことを網羅的に表示します
大澤 このツールは防災用製品を持つ企業にとっては大変心強いのですが、民間だけではなく、自治体への積極的な販促ツールになるのではないでしょうか。そのためには自治体のニーズを具体的に把握する必要があるでしょう。
荒木 やはり自治体と民間企業とではかなりニーズが異なります。例えば自治体の場合、支援物質が送られてきたら、どこに何を持っていけばいいのかといった、物流など特有の問題へのソリューションを用意しなければなりません。当然民間企業向けとはメニューも変わってくるでしょう。いろいろな形で支援できるツールにしたいと考えています。
藤元 会議への参画企業を増やしていくことでこの営業支援ツールが充実していき、それがまた新しい参画企業を呼び込むという形になっていけばいいですね。
荒木 もう一つ、リアルタイム河川水位・洪水予測技術「River Cast(リバーキャスト)」の開発を進めています。これは過去の雨量データと河川水位データをもとにして、周辺の雨量予測から今後の水位変化を予測するという技術です。少しマニアックなアプローチですが、予測に非線形数学を用いているところが大きな特徴で、東京大学の先生との共同研究の成果になります。現在は複数の自治体に使っていただいていて、地形や利用シーンの違いに対する対応方法の検討を進めているところです。近年多発している集中豪雨の場合、1時間で数メートル水位が上がることもあります。これにどうにか対応したいというのが、研究に取り組んだきっかけです。RiverCastは今のところ雨量から6時間先の水位を予測することができますので、これが実用化することによって、これまでの避難勧告や避難指示の出し方も変わってくるでしょう。
近藤 岡山の真備町の水害でも、予測が出て避難行動ができていたら被害は防げたはずですからね。
荒木 1時間あたり80ミリの雨と言われても、その結果何が起こるのかわからない。でも1時間で80ミリの雨が降ったら、3時間後に目の前の川は4メートル水位が上がりますと言われれば、避難行動を取りやすくなります。そのためにも今は少しでも予測精度を上げていきたいところです。
RiverCastのシステムイメージ

文化シヤッターの止水事業

大澤 私どもが止水事業に参入したのは2011年10月。集中豪雨が都市型災害という形で増えてきた頃です。施工が必要な大型のもの、高価なものが主流だった一般的な止水製品に対して、設置場所や用途に応じて「誰でも・簡単に・素早く」といったコンセプトで新たな浸水防止用の製品を開発してきました。最初に開発したのが簡易型止水シート「止めピタ」です。全部の部品が揃っても20キロ未満ですので女性でも運ぶことができ5〜10分程度で設置できる。これが土のうだと20キロ、30キロあるものを大勢で運んで、設置に30〜40分かかり、また使用後も収納等に苦労しますが、止めピタは軽く収納も簡単です。2015年度の超モノづくり部品大賞をいただいたBX止水板「ラクセット」は、同じく軽く設置も簡単で、さらに洪水時や災害時でも人の出入りが必要なコンビニエンスストア、銀行などでの使用を想定して開発しました。また、いつ来るかわからない災害に対し、無人で自動的に起動する浮力起伏式止水板も手掛けています。その他止水板付きシャッターなども用意しています。
近藤 浸水深が深い河川の氾濫については通常、設計コンセプトの段階で重要機器の設置階を上げるなどの対応をしなければなりませんが、内水氾濫に対しましては既存の建物への対策として後付けできる製品・技術は非常に重要ですね。
大澤 社会貢献という意味でも、もっとバリエーションを増やしていかなければならないと考えています。

日本防災産業会議の今後の課題と方向性

藤元 これまでの話にも出てきましたように、防災営業支援ツールのソリューションの充実、防災情報共有システムの精度の向上を図っていくためにも会員数を増やしていかなければなりません。活動目標としては1年後に現在の会員数26社を50社に、2年後にはさらに倍の100社に増やしていこうと考えています。そのための一つの方策として、新しく準会員制度をつくり、いろいろな防災製品やソリューションをお持ちの中小企業の方たちにも入りやすい仕組みも検討しています。日本防災産業会議に参画することで、自社の防災関連製品を世に広められ、また実際に発災した際には具体的な対応が可能になるという、この会議の特色を広くアピールしていきたいと思っています。
大澤 企業間の横のつながりができることで、自分たちの持っているものと他社が持っているものを合わせるとこんなイノベーションが起こせるのではないか、という状況に少しでも近づけていきたいですよね。
藤元 メーカー、通信、流通、建設と、さまざまなジャンルの業種がモノ・技術・情報を持ち寄って日本の防災減災体制を強化していくということですよね。
近藤 防災マップ、防災営業支援ツール、アークジーアイエスオンラインなどの共通プラットフォームを大いに活用することで、次の新しい技術開発につなげていければと。
藤元 こうした活動により、それぞれの防災意識が高まって防災産業も成長していくと思っています。例えばいま環境活動に取り組まない企業は考えられませんが、それまでにはかなりの時間がかかりました。一方で日本は災害大国ですから、数多くの企業が防災活動に真剣に取り組んでいく時期が、もうそこまで来ている気がします。自然災害が起きてからではなく、日頃から防災減災を視野に入れた製品・サービスが企業活動の中に組み込まれていく社会がいずれやってくるでしょう。世界有数の災害大国である日本が先頭に立って世界をリードしていくというのも、日本らしい取り組みではないでしょうか。